【長野・善光寺】人と地球をつなぐ味 〜老舗味噌蔵「三原屋」を訪ねて〜

【長野・善光寺】人と地球をつなぐ味 〜老舗味噌蔵「三原屋」を訪ねて〜

長野・善光寺の西側、どこか懐かしい街並みの中に、ひっそりと佇む味噌蔵「三原屋」。創業はなんと1848年。江戸時代から続く、信州を代表する味噌・醤油の醸造蔵です。 

海から遠く、塩が貴重だった長野県では、各家庭で味噌を仕込み、味噌にした状態で塩を保蔵する食文化が発達し、食塩保存のための発酵食文化は今も色濃く残っています。

長い歴史の中で受け継がれてきたのは、ただのではありません。
そこには、暮らし・自然・人をつなぐ発酵文化が息づいています。三原屋 河原社長


三原屋の始まりは「人を助ける味」

三原屋のルーツは米穀商。
明治時代までは味噌や醤油は必要なときに買うのではなく、飢饉に備えて自給自足するのが普通でした。三原屋も、元は米を売る米穀商で、味噌は自家用に作っていたのですが、大正時代になって味噌醤油を本業にしました。その背景には江戸時代後期(1847年)の弘化善光寺地震の際に自家醸造の味噌と醤油を災害支援に供出したことでした。

「食は、命をつなぐもの。」
そんな原点が、今の三原屋のものづくりの思想につながっているようです。

元「蔵」だった事務所でお話を伺いました。

 

歴史を感じさせる収納ロッカー。今は事務用品が収納されています。


■ “手前味噌が教えてくれること

三原屋の大きな特徴のある商品が、家庭で熟成させる「仕込みそ」。

冬に仕込んだ味噌をそのまま自宅で寝かせ、半年ほどで食べごろになるという商品です。 面白いのは、同じ材料・同じ製法でも、熟成している間に家ごとで味が変わることです。

その理由は、その家に住む微生物が違うから。

「同じように仕込んでも全く風味が違う“手前味噌”ができるんですよ。それは味噌が生きていて周囲の環境とつながっている証拠なんです」と河原さん。

昔から言われる「手前味噌」は、単なる自慢ではなく——その人の暮らしや環境そのものを映す食べ物な「自分の環境で育った、自分だけの味」という意味でもあったんですね。

仕込み味噌を半年後に開けてみます


職人技が光る「火入れ醤油」

三原屋のもう一つの魅力が、江戸時代から受け継がれてきた火入れ醤油

醤油は最後に加熱することで香りを引き出し、保存性を高めます。
たとえば同じ譜面の楽曲でも指揮者が変われば印象が変わるように、

醤油にも職人の個性によって創造される火入れの不思議があるのです。

今日では昔ながらの伝統技術を受け継ぐ火入職人は数少なくなりました。

三原屋では伝統技術を受け継ぎながら、終日つきっきりで丁寧に醤油を「磨き上げ」ています。

その結果、大量生産では出せない、一釜ごとに違う、手間暇かけた奥行きのある味わいが生まれます。

それはまさに機械化できない「職人がつくる味」なのです。


醤油の火入れの様子

研究者から蔵元へ

6代目店主・河原清隆さんは、もともと製薬会社の研究者。

微生物や栄養の研究に携わる中で、家業に携わるきっかけとなったのは、

『患者さんは差し入れられた家族の手料理を食べることで、元気になって退院していくものかもしれない』という医師の言葉でした。

最先端の科学技術でつくった経腸栄養剤の商品開発に携わっていた河原さんにとって、その医師の言葉は大きな気づきをもたらしました。

河原さんは「人類は手づくり料理を食べて周囲の生態系とつながりながら進化してきました。手づくりの家庭料理は無菌ではありませんが、何度食べても飽きないし、調理の場所と顔がわかる安心があります。

脳が認識する美味しさは販売者が発信する情報の影響を受けますが、免疫細胞が惑わされることはありません。

そのことに気づいて以来、免疫機能と不可分な“手づくり品質“の意味を考えるようになりました。」とおっしゃいます。

結果として、一時は時代遅れだと思って敬遠していた家業に戻ることにしました。

「商業目的で無菌生産された加工食品が増える現代だからこそ、生態系とつながる微生物が醸した発酵食品の大切さを伝えたい」

そんな想いが、三原屋の味づくりには込められています。


小さな蔵だから守れるもの

今や大規模化・効率化、味の画一化が進む食品業界。

その中で三原屋は、あえて規模を広げません。
手づくり品質を保つために、昔ながらの方法を守り続けています。

小さな仕込みだからこそ、空気や環境の影響を受けやすく、
より豊かな発酵が生まれる。

効率ではなく、自然との共存を選ぶ姿勢。それが、三原屋の味の深さの理由です。


味噌は、人と地球をつなぐ

河原さんはこう語ります。

「味噌は、地球とつながった食べ物」

私たちの体も、周りの環境も、目には見えない微生物でつながっている。

味噌や醤油を通して感じるのは、そんな見えないつながりなのかもしれません。


最後に

おにぎりに味噌を塗るだけ。それだけで、なぜかホッとする味。

それはきっと、人の手のぬくもりと、菌の力が合わさった「自然の味」だから。

三原屋は、ただの老舗ではありません。
未来に伝えたい食のあり方を体現する場所です。

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